ゲンジボタルとヘイケボタルは日本の風景の変化をどう生き抜いているのかゲンジボタルとヘイケボタルは日本の風景の変化をどう生き抜いているのか

初夏の日本で見られるホタルの代表が、ゲンジボタルとヘイケボタルだ。

どちらも水辺で生活し、夜になると光を使って相手を探す。しかし、この2種は同じ環境を必要としているわけではない。

ゲンジボタルは主に川や用水路などの流水環境と結びつき、ヘイケボタルは水田、湿地、休耕田など比較的流れの弱い水辺にも生息する。

この違いは、日本の風景が変わる現在、非常に重要になっている。

都市化が進む地域、農業を続ける人が減った地域、使われなくなった水田が増える地域では、ゲンジボタルとヘイケボタルが同じように増減するとは限らないからだ。

2025年に発表された日本全国規模の研究では、この2種が土地利用の変化に対して異なる傾向を示していることが明らかになった。

全国調査では両種とも減少地点が多い

研究では、日本各地の農村、都市周辺、森林を含む158地点について、人口、土地利用、気温と生物多様性の変化が分析された。

対象には鳥類、カエル、チョウ、植物とともにゲンジボタルとヘイケボタルも含まれている。

ゲンジボタルが調査された31地点では、18地点、約58%で個体数が減少していた。増加した地点は6地点だった。

ヘイケボタルも26地点のうち16地点、約61%で減少している。増加したのは9地点だった。

つまり、日本全体を見れば「ゲンジだけが減り、ヘイケは元気」という単純な状況ではない。

両種とも多くの地域で厳しい変化に直面している。

興味深いのは、その減少と土地利用との関係が同じではないことだ。

都市化に弱い傾向を示したゲンジボタル

調査では、人口が増えている地点や都市的な土地利用が拡大している地点で、ゲンジボタルの個体数が減少する傾向が確認された。

ゲンジボタルの幼虫は、一般的に川や用水路など流れのある水中で生活する。

和歌山県でゲンジボタルとヘイケボタルを同じ場所で比較した研究でも、ゲンジボタルは水田そのものではなく、水田に隣接する細い流れに多く確認された。

ここで重要になるのが、水路の形だ。

都市化が進むと、昔の土や石でできた水路がコンクリート化されることがある。

水の流れを速くするために底や側面が平らになり、落差の大きい構造物が設置される場合もある。

しかしホタルに必要なのは、水が流れているという条件だけではない。

千葉県の谷津田を調べた研究では、水中の溶存酸素や水路壁の傾斜が水生ホタルの生息と関係していた。幼虫が上陸し、土の中へ潜って蛹になるためには、緩やかな土の岸も重要だと考えられている。

川が残っていても、その構造が変わればゲンジボタルにとっては別の環境になってしまう。

ヘイケボタルは水田そのものを利用する

ヘイケボタルは少し違う。

和歌山県の調査では、ヘイケボタルは水が張られた水田区画の中に集中して確認された。ゲンジボタルがその水田に隣接する細流に多かったこととは対照的だ。

昔から日本の水田は、米を作る場所であると同時に、多くの水生生物の生息地でもあった。

春から夏に水が張られる。

浅い水域ができる。

水路から水が入る。

泥や植物が残る。

この環境をヘイケボタルの幼虫も利用する。

そのためヘイケボタルを守るには、単純に「自然の湿地を残す」だけでは十分ではない。

人が水田を耕し、水を管理することそのものが、生息環境を維持している場合がある。

都市化した場所でヘイケが増えたという意外な結果

2025年の全国研究には、一見すると意外な結果もある。

都市的な土地利用が増えた調査地点では、ゲンジボタルが減少する一方、ヘイケボタルは増加する傾向が示された。人口が増加している地点でも同様の違いが確認されている。

ただし、これは「ヘイケボタルは都市化が好き」という意味ではない。

ヘイケボタルの全国的な減少地点は依然として多い。

研究で示されたのは、土地利用の変化に対する反応がゲンジボタルとは異なるということだ。

都市周辺であっても水田、水路、湿った低地が一定程度維持されれば、ヘイケボタルが生息できる場所は残る可能性がある。

逆に人口が少ない農村でも、水田が完全に放棄されて乾燥すれば適した環境は失われる。

都市か田舎かという分類だけでは、ホタルの未来を判断できない。

人が減れば自然が戻るとは限らない

日本の人口減少を考えると、「人がいなくなれば自然が回復する」と考えたくなる。

しかし今回の研究が示した結果は、それほど単純ではない。

1995年から2020年に人口が減少した64の調査地点でも、都市的土地利用が減少した場所は一つもなかった。

17地点では都市化がさらに進んでいた。

また31地点では農地が減少していた。

人が減っても、道路、住宅地、駐車場、商業施設などがすぐに自然へ戻るわけではない。

一方で農業が停止した土地では、水田への給水も止まる。

水路が管理されなくなる。

草木が増える。

やがて湿地だった場所が乾燥し、別の植生へ変わることもある。

ホタルにとって「放置された自然」が必ずしも理想的な自然とは限らない。

水田をやめるとヘイケにも影響する

全国調査では、農地が減っている地点で多くの生物が減少する傾向が確認された。

ヘイケボタルについても、農地が減少する地点では減少し、農地が安定している地点では増加する傾向が示されている。

これはヘイケボタルと日本の水田景観との関係を考えるうえで重要だ。

水田は完全な自然環境ではない。

人が作った環境である。

しかし何世代にもわたって同じ土地利用が続くと、そこへ適応して生活する生物が現れる。

ヘイケボタルもその代表の一つだ。

水田を守るということは、米の生産だけを維持することではない。

水田、水路、畦、湿地、草地がつながった一つの生態系を守る意味を持つ。

ゲンジボタルにも周囲の農地が重要

ゲンジボタルは流水性だから、水田とは関係がないように見える。

しかし実際には周囲の土地利用から強く影響を受ける。

栃木県南東部の農村景観で行われた研究では、ゲンジボタルの個体数と周囲の水田、休耕地、人工的な土地、森林の割合との間に関係が確認された。

特に水田が多く、谷の斜面に森林が残り、人工的な土地が少ない場所でゲンジボタルが多い傾向があった。

つまり川だけを保全しても十分とは限らない。

川へ流れ込む水。

周囲の森林。

農地。

水路。

幼虫が上陸できる岸。

成虫が休める植物。

これらを一つの景観として考える必要がある。

同じ谷でも2種の居場所は違う

ゲンジボタルとヘイケボタルを比較すると、狭い地域の中でも環境の使い分けが見えてくる。

和歌山県孟子不動谷では、ゲンジボタルは細流沿いに、ヘイケボタルは水田や休耕田とその周辺に分布していた。

さらにヘイケボタルはゲンジボタルより発生期間が長く、複数の発生ピークが確認された。

同じ夜に同じ谷で光っていても、2種の生活は同じではない。

だから保全方法も一つではない。

ゲンジボタルを増やすための水路整備が、必ずヘイケボタルにも適しているとは限らない。

反対に、水田を湿地化すればすべてのホタルが増えるとも限らない。

地域にどの種が生息し、それぞれがどこで幼虫期を過ごしているかを調べる必要がある。

ホタルを守ることは日本の風景を守ること

ゲンジボタルとヘイケボタルの減少を見ると、問題はホタルだけにあるように感じる。

しかし実際には、その背後に日本の土地利用そのものの変化がある。

都市では水路が人工化される。

農村では農家が減り、水田が使われなくなる。

人口が減った地域でも都市的な土地利用が残る。

耕作放棄地では水管理が停止する。

こうした小さな変化が積み重なり、長い時間をかけて作られてきた里山や水田の環境を変えている。

ゲンジボタルは流れる水とその周囲の農村景観に依存する。

ヘイケボタルは水を張った水田や湿地との結びつきが強い。

両種は同じ日本の風景を利用しながら、異なる場所を必要としている。

だから一方が増えている場所でも、もう一方が減っていることがある。

ホタルの数を増やすだけではなく、どの種類が、どの環境で、なぜ増減しているのかを見ることが重要になる。

ゲンジボタルとヘイケボタルの光は、日本の夜を彩るだけではない。

その光の変化は、川、水田、水路、森林、そして人が長く管理してきた日本の風景そのものが変わっていることを知らせる小さなサインでもある。