夜の川沿いや水田でホタルを見るとき、周囲の明るさを気にする人は多い。ところが重要なのは、街灯が「明るいか暗いか」だけではない。白、青、緑、黄色、赤といった光の色によって、ホタルへの影響は変わる。
ホタルは自ら光を出し、その光を使って相手を見つける。人間にとって便利な夜間照明が、ホタルにとっては繁殖のための通信を妨げる光になることがある。
特に日本のゲンジボタルとヘイケボタルを使った研究では、LEDの色と照度によって受精卵の産卵に違いが生じることが確認されている。街灯の色を選ぶことは、景観の問題だけではなく、ホタルの次世代が残せるかどうかにも関係している。
ホタルの光は繁殖のための信号
成虫のホタルが光る大きな理由の一つが、繁殖相手とのコミュニケーションだ。
多くの発光するホタルでは、雄が飛びながら一定のパターンで光り、雌がそれに反応する。光るタイミング、間隔、明るさなどが相手を認識する手がかりになる。
暗い環境では小さな発光でも十分に目立つ。
しかし街灯や住宅の照明が加わると状況が変わる。背景そのものが明るくなり、ホタルが発する弱い光とのコントラストが低下するからだ。
さらに問題を複雑にするのが光の波長である。
人間には違う色に見える光でも、ホタルにとっては見え方や影響の強さが異なる。ホタル自身の発光色と人工照明の波長が重なれば、相手の信号を識別しにくくなる可能性もある。
そのため「LEDなら環境に優しい」と単純には言えない。
ゲンジボタルでは黄色い光も影響した
日本では、ゲンジボタルとヘイケボタルを対象にLED照明の色と繁殖の関係を調べた実験が行われている。
研究では白、青、緑、黄色、赤の5色のLEDを使用し、成虫を毎晩それぞれの照明条件に置いた。そして産卵された卵が受精しているか、さらに幼虫が孵化するかを調べた。
結果は単純な「明るい光ほど悪い」というものではなかった。
ゲンジボタルでは、黄色LEDがわずか0.1ルクスという低い照度でも受精卵が確認されなかった。また白、青、緑のLEDでは20ルクスで受精卵が産まれなかった。
研究では、黄色LEDが道路照明に使われてきた高圧ナトリウムランプと同様に、ゲンジボタルの交尾行動を妨げる可能性が示されている。
ここで興味深いのは、黄色が必ずしもホタルに優しい色ではないことだ。
夜間照明では青い光が生物に強い影響を与えるという話を聞くことが多い。しかし発光生物では、自分たちの信号と人工光のスペクトルがどの程度重なるかも重要になる。
ヘイケボタルでは青色LEDが問題になった
同じ実験でも、ヘイケボタルの反応はゲンジボタルと同じではなかった。
ヘイケボタルでは、青色LEDを10ルクスで照射した条件で産卵が阻害された。
つまり、同じ「ホタル」という名前でまとめても、光に対する感受性は種によって異なる。
ゲンジボタルは主に流水環境と結びつき、ヘイケボタルは水田や湿地などでも生活する。活動する時間や発光の特徴も完全には同じではない。
したがって、ある場所で問題が少なかった照明を別の地域へそのまま導入しても、同じ結果になるとは限らない。
ホタル保全を考えた照明には、地域に生息している種を知ることが必要になる。
黄色や赤なら安全とは限らない
夜間の生態系に配慮した照明では、青色成分を減らし、アンバーや赤に近い光を使う方法がよく検討される。
しかしホタルについては、ここにも注意が必要だ。
北米のPhotinus obscurellusを使った研究では、複数の色の人工光を比較した結果、すべての照明条件で求愛行動が抑制された。特に強いアンバー光の影響が大きかった。
研究者は、ホタル自身の発光スペクトルと重なる人工光ほど、求愛信号を妨害しやすい可能性を指摘している。
別の研究をまとめたレビューでは、赤い光でも雌の応答が低下した例が報告されている。つまり赤色照明も「ホタルには影響しない光」と考えるべきではない。
重要なのは特定の一色を安全と決めることではなく、種、波長、照度、照射方向を組み合わせて考えることだ。
色だけでなく明るさも繁殖を変える
人工照明の影響を考えるとき、色だけに注目するのも危険である。
Photinus属を対象にした別の実験では、人工光の強さによって交尾成功率が大きく変化した。
Photinus obscurellusの雌雄を実験室で観察したところ、自然に近い暗い条件では22組中10組が交尾した。一方、30ルクスの人工照明では20組のうち交尾したペアはゼロだった。
野外でも5ルクスの人工光を当てると、雄の求愛発光と雌の応答が低下し、交尾成功にも影響が出た。
さらに別の種では、人工光の下に置かれた雌を模した光より、暗い場所にあるものへ雄が圧倒的に多く近づいた。29匹中28匹が暗い側を選んでいる。
色を調整しても、必要以上に明るければ問題は残る。
幼虫も街灯の色を感じている
人工照明の影響を受けるのは成虫だけではない。
ゲンジボタルとヘイケボタルの幼虫についても、LEDの色に対する行動が調べられている。
白、青、緑のLEDでは、両種の幼虫が0.1ルクスという非常に弱い光でも照明側を避ける行動を示した。
黄色ではヘイケボタルが5ルクス以上、ゲンジボタルが30~40ルクス以上で回避した。赤色ではヘイケボタルが40ルクス以上、ゲンジボタルが60ルクス以上で光を避けた。
成虫が飛び交う数週間だけ照明を消せば十分とは限らないということだ。
ホタルは一年の大部分を幼虫として過ごす。川、水路、水田、湿地の近くに一年中強い照明があれば、成虫になる前から行動に影響を受ける可能性がある。
街灯は場所によって設計を変える必要がある
ホタルが生息する地域でも、人間の安全のために照明が必要な場所はある。
道路や橋、階段を完全な暗闇にすることが常に現実的とは限らない。
だからこそ重要になるのが、光を必要な場所だけに使う考え方だ。
川面や水田まで照らさない。
照明を上方向や周囲へ漏らさない。
必要以上に高い照度にしない。
ホタルの活動時間帯だけ減光や消灯を行う。
そして地域のホタルの種類に合わせて光源のスペクトルを選ぶ。
単に白色LEDを赤や黄色へ交換するだけでは不十分である。
特に日本の研究では、ゲンジボタルが非常に弱い黄色光の条件でも繁殖への影響を受けた。ホタルの生息地では、「人間には暗く感じるから問題ない」という判断もできない。
ホタルに必要なのは本当の夜
LEDは省エネルギーで長寿命という大きな利点を持つ。
しかし電力効率が高いことと、生態系への影響が小さいことは同じではない。
ホタルにとって夜の暗さは単なる背景ではない。繁殖相手を見つけ、信号を送り、次の世代を残すための環境そのものだ。
そして研究から見えてくるのは、光の影響を「街灯があるかないか」だけで考えることの危険性である。
白、青、緑、黄色、赤では反応が異なる。ゲンジボタルとヘイケボタルでも結果は違う。照度が変われば同じ色でも影響は変化する。
ホタルのいる夜を守るために必要なのは、最も環境に優しい一色を探すことではない。
不要な光を減らし、必要な光だけを必要な場所へ届けることだ。
街灯の色を選ぶ小さな判断が、暗闇の中で交わされるホタルの求愛信号と、翌年に生まれる新しい世代を左右する可能性がある。